なつなつ
- 肌の潤い・水分量とは皮膚科学的に何を指すのかが分かる
- 化粧水を塗った時に肌でどのようなことが起こっているかが分かる
- 化粧水を塗る意義や化粧水の本当の効果が分かる
お風呂あがりに化粧水でお肌を整えるという人も多いと思います。最近では女性だけでなく、男性用の化粧水もたくさん販売されていますね。
化粧水に対する多くの人のイメージは「化粧水はお肌に水分を補給し、潤いを与える効果がある」だと思います。しかし皮膚科学的な視点で化粧水を考えると、少し違った側面が見えてきます。
先日の私のTwitterではこのようなツイートが注目されました。
色々言いましたが化粧水に関する結論
— なつなつ@研究職 (@natsunatsu_7722) January 22, 2020
✔︎化粧水をたくさん塗っても肌の水分量は上がらない(保湿有効成分入りの化粧水は除く)
✔︎水分量を上げるためには水分を逃がさない力を上げることが重要
✔︎そのためには保湿剤による水分保持、日焼け止めによる肌のバリア維持が重要
実は基本的には、化粧水をたくさん塗っても肌の水分量は増えません。このツイートが多くの方に反響があり「知らなかった!」という声をたくさんいただきました。
そこで本記事では上記のツイートの詳細な解説、そして化粧水の本当の効果について正しい知識を共有したいと思います。
肌の潤いとは何か?
多くの人が化粧水に期待していることは肌に潤いを与えることだと思います。なんとなく、化粧水を肌にたくさん塗れば水分が肌にたくさん浸透し、潤いが上がりそうですよね。
でもこの「潤い」という言葉、非常に曖昧ですよね。何をもって肌が潤っていると言えるのでしょうか?肌の潤いの程度は、皮膚科学的にはどのように定義されるのでしょうか?
結論を述べると「肌の潤い」は皮膚科学的には角層水分量で定義されます。
角層は皮膚の最も外側にある0.02 mm程度の層であり、この層に含まれる水分の量を「角層水分量」と呼んでいます。
角層水分量はこのようなコルネオメーターと呼ばれる装置などで比較的簡単に測定することが出来ます。
参考:株式会社インテグラル、 コルネオメーター
化粧品の技術資料でも「この化粧品を4週間使用することで肌の水分量が上昇しました!」のような謳い文句はたくさんありますね。このような肌の水分量のデータは、コルネオメーターなどを使って角層水分量を計測していることがほとんどなのです。
- 肌の潤いは角層水分量によって定義される
角層水分量を増やすには?
では次に、どうやったら角層水分量が増えるかについて考えていきます。
まず非常に単純な角層水分量の増やし方についてご紹介します。それは肌を水でぬらすことです。
当たり前ですが、肌を水で濡らせば角層水分量は大きく増えます。洗顔直後や入浴直後は、角層水分量が増えている状況です。もちろん、化粧水を塗った直後も角層水分量は増えています。
ただこの洗顔・入浴・化粧水を塗った直後の角層水分量は実は重要ではありません。なぜなら、この時の角層水分量の上昇は一時的な上昇であるからです。
洗顔・入浴・化粧水塗布後の肌の水分量は、普段の肌に存在する水分量と比較して圧倒的に多くなっています。化粧水を塗った直後は肌はしっとりと潤っているのを誰もが感じると思いますが、私たちが普段仕事や勉強をしている時はそうはなっていません。
化粧水を塗った直後は一時的に角層水分量が増えているだけなのです。
そして言うまでもなく角層水分量で重要なのは、普段の状態の角層水分量です。入浴直後や化粧水を塗った直後に角層水分量が上がるのは当たり前なのです。
- 肌を水で濡らすと角層水分量が上昇するのは当たり前である
- 肌を水で濡らした直後の角層水分量は重要ではない
本当の意味での「肌の潤い」
化粧水を塗った直後に角層水分量が増えるのは当たり前だということが分かりました。となると、普段の状態の角層水分量を上げる方法が知りたいですよね。
そこで次に本当の意味での肌の潤いを上げるため、角層が水分量を保つ仕組みについてさらに詳しく説明します。
まず洗顔・入浴・化粧水の塗布によって角層水分量が一時的に増えます。この一時的に増えた水分は徐々に空気中に蒸発していき、最終的には普段の角層水分量に戻ります。図に表すとこんな感じですね。
化粧水を塗った直後は、空気中に存在する水分量と比較して肌の中の水分量が圧倒的に多くなっています。このように肌の中の水分と空気中の水分に大きな差があった場合、これを均一化するように水分が動きます。
化粧水を塗ることで一時的に増加した肌の水分は、空気中との差を埋めようと空気中に蒸発(拡散)していくのです。
そして最終的にこの蒸発が落ち着いた時の角層水分量が真の角層水分量、すなわち私たちが本当に上げるべき肌の潤いになります。
もうお気づきの方もいると思いますが、化粧水を塗った際に肌に取り込んだ水分は、最終的にほとんど空気中に蒸発してしまうわけです。
つまりバシャバシャと水のように化粧水を使っても、肌の水分量は上がらないということになります。
- 肌に与えた水分のほとんどが最終的に空気中に蒸発してしまう
- 本当に上げるべき水分量は蒸発が落ち着いた時の水分量である
本当の「肌の潤い」を上げるには?
ここまでで、水分をたくさん肌に塗っても水分量は上がらないことを学びました。その理由は、外から与えた水分のほとんどが空気中に蒸発してしまうためでしたね。
そこで次に普段の私たちの状態、つまり本当の意味での肌の潤いを上げるために必要なことを考えていきます。
まずこれを議論するために重要な皮膚科学の用語があります。それがTEWL(経皮水分蒸散量)です。これは化粧品の技術資料などでも非常によく出てくるので、是非覚えてみてください。
このTEWLは、簡単に言えば一定面積の皮膚から一定時間に蒸発する水分の量を表しています。そしてこのTEWLの値は、皮膚の状態によって大きく変わってきます。
例えば皮膚のバリア力が高いとき、TEWLの値はどうなるでしょうか?答えは低くなります。
皮膚のバリア力が高いということは、外から皮膚に侵入する刺激物質を防御する力が高いということですね。それはもちろん、皮膚の内部から蒸発していく水分も逃がしにくいと言えますよね。つまり、水分の蒸発量を表すTEWLは低くなります。
このような背景からTEWLは皮膚のバリア力を反映する指標として知られており、バリア力が高いと低くなり、バリア力が低いと高くなります。分かりにくいですが、皮膚のバリア力とTEWLの値は逆になると覚えてください。
そしてもうお気づきだと思いますが、TEWLを下げれば皮膚のバリアが上がり、皮膚内部の水分が蒸発しにくくなり、結果として肌が潤うというロジックが完成します。肌に潤いを与えるためには、肌の内部の水分を逃さない力を上げる、すなわちTEWLを下げれば良いのです。
それではTEWLを下げるためには何が必要なのでしょうか?
TEWLを決めているファクター、それはほとんど「角層」にあります。皮膚の最外層の角層の状態が良ければ皮膚のバリア力が上がり、TEWLが下がるのです。良い角層の状態というのは色々ありますが、一般的には以下のような状態を指します。
- 細胞間脂質(角層の細胞と細胞の間を埋めている脂質)の量が多く、その密度が高い
- 角質細胞が隙間なくきれいに整列して並んでいる
- 角質細胞のコーニファイドエンベロープ(細胞の周辺の構造体)が強固である
詳しくは解説しませんが、角層の状態をこのように保つことが出来ればTEWLが下がり、皮膚のバリア能力が向上します。そしてこのような角層の状態が崩れた時、TEWLが上がりバリア能力が下がってしまいます。
例えば紫外線は、表皮細胞のターンオーバー(細胞の分化)を早めることを以前こちらの記事で解説しました。
【勘違い多数】 皮膚のターンオーバーとは?皮膚科学の基礎から徹底解説!ターンオーバーが早くなってしまうと、細胞が普段よりも早く角層に上がってきてしまい、細胞が乱れた状態で並んでしまいます。さらに細胞の成熟(分化)にかかる時間が短くなってしまうため、細胞が未熟になってしまいます。その結果未熟なコーニファイドエンベロープが形成され、角層のバリア能力が低下すると言われています。
つまり紫外線は角層の状態を悪化させることでTEWLを上げ、皮膚のバリア力を下げてしまう要因の一つと言えます。TEWLが上がるということは水分の蒸発量が上がるわけですから、肌の潤いを下げることにつながりますね。日焼け止めを使用することでこのような角層状態の悪化を防ぎ、肌の潤いを上げることが出来ると考えられます。
また保湿剤を使用することで、蒸発していく水分を肌に保持するという方法もあります。大きく分けると保湿剤には、ワセリンなどの油系の保湿剤とグリセリンなどの水系の保湿剤があります。
油系の保湿剤は基本的に皮膚表面に油の膜を形成し、水分の蒸発を物理的に防ぐことで潤いを保ちます。また水系の保湿剤は水分子と親和性が高いため、肌の水分を抱え込むようにして水分を保持します。このような保湿剤を使用することで肌の水分量を増加させ、潤いを上げることが出来るのです。
さらに過度な洗顔は角層の保湿に関与する細胞間脂質(セラミドなど)や天然保湿因子(NMF)を流出させることが知られています。洗顔については皮脂やメイクなどの汚れ落ちとのバランスが非常に難しい所ですが、洗いすぎは禁物です。自分の肌の状態に合わせて出来るだけマイルドな洗顔を行うことも、肌の潤いを上げるためには重要です。
以上をまとめると、肌の潤いを上げるポイントはこのようになります。
- 日焼け止めで角層の状態を良好に保ち、皮膚のバリア力をキープする
- 保湿剤で角層から蒸発する水分を肌に保持する
- 洗いすぎない洗顔で肌の保湿因子(細胞間脂質・天然保湿因子)の流出を防ぐ
結局、化粧水は不要なの?
ここまで、本当の意味で「肌の潤い」を上げる方法についてご説明しました。日焼け止めとマイルド洗顔&保湿がいかに重要か、お分かり頂けたと思います。
そして化粧水のような皮膚の外から塗った水分は、ほとんどが蒸発してしまうということも学びました。そうなると、化粧水を塗る必要はないのでしょうか?
結論から言うと、化粧水を塗るかどうかは肌の状態に合わせてその人が好きに決めればよいのです。私は化粧水の必要・不要論を語ることに意味はないと思っています。
皮膚科学の理論としてはこれまで説明してきた内容が正しいとされていますが、これはあくまで理論の話であり、やっぱり化粧水を塗らないとと肌の調子が上がらないという人も実際にたくさんいます。
特に近年は、皮膚の状態を改善する美容成分を配合した化粧水も多く販売されています。例えば保湿成分や植物エキスなどです。化粧水は水であるがゆえに、乳液やクリームよりもこれらの成分を皮膚の内部に浸透させやすいと考えられます。
私の見解としては、化粧水を塗ることによる本当の効果は水分を補給することではなくこれらの成分を効果的に浸透させることにあると思っています。
基本的に化粧水を塗ることで肌にとってマイナスになることはほとんどありません。ただ今回ご説明したように、バシャバシャとたくさん化粧水を使っても水分量を増加させる効果は小さいので、必要量(よく500円玉の大きさと言われます)を手に取ってお肌に均一になじませると良いと思います。
ぜひ本記事を参考に、賢い化粧水の使い方を試してみてください!
本記事のまとめ
・化粧水でお肌に入れた水分はほとんどが空気中に蒸発してしまう
・肌の潤いを上げるためには肌の水分を逃さない力を上げることが重要
・化粧水を塗る本当の意義は「効果のある成分を浸透させること」にある
[…] 【驚きの真実】 化粧水の本当の効果とは?皮膚科学の視点から徹底解説! […]