ニキビと食事の関係性は非常に多くの研究によって調査されています。
中でも近年注目されているのが乳製品とニキビの関係性です。
本記事では、青年期における乳製品の摂取とニキビ発症の関係性についてまとめたこちらのシステマティックレビューの内容をご紹介します。
Dairy Intake and Acne Vulgaris: A Systematic Review and Meta-Analysis of 78,529 Children, Adolescents, and Young Adults
Christian R. Juhl, Helle K. M. Bergholdt, Iben M. Miller, Gregor B. E. Jemec, Jørgen K. Kanters,1, and Christina Ellervik
Nutrients. 2018 Aug; 10(8): 1049.
システマティックレビューとは?
まずこの論文の形式であるシステマティックレビューについて説明します。
研究には様々な形態がありますが、システマティックレビューはたくさんの論文の検証結果を足し合わせてより確からしい結果を得るための研究です。
例えばある薬の効果をヒトで比較する場合、たいていは薬を投与したヒトの群と投与していないヒトの群の2群で効果を比較します。
こういった2群間の比較研究は一般的に行われているのですが、一方でたくさんの人を一度に集めることは困難なのでどうしても試験参加者の数が少なくなってしまいます。
システマティックレビュー(あるいはメタアナリシス)はこのような既存研究の課題を解決するものです。
具体的には、データベースから論文を一定の基準でたくさん集めてきて被験者の母集団を非常に大きくし、より確からしい科学的根拠を得ようという研究です。
引用:Wikipedia「メタアナリシス」
この図では上に行けば行くほど科学的エビデンスのレベルが高くなることを示しています。一般にシステマティックレビューにより得られたエビデンスのレベルは非常に高いと考えられています。
今回はこのシステマティックレビューによって、乳製品の摂取と青年期(30歳以下)におけるニキビの発症の関係性を解析した論文を紹介します。
乳製品の摂取とニキビの関連性解析
実際に論文の具体的な内容を解説していきます。
論文の選定基準
世界最大の医療系論文データベースPubmedで以下のようなワード検索を行い論文を集めます(*説明のため日本語訳しております。正確な検索条件は論文をご覧ください。)。
・OR条件1
乳製品 / 牛乳由来の / 牛乳 / ヨーグルト / チーズ / ライフスタイル
・OR条件2
尋常性挫創 / ニキビ
・AND条件
OR条件1 / OR条件2
今回は乳製品、特に乳製品全般・牛乳・ヨーグルト・チーズとニキビの関係性を解析していますね。
この後、年齢などの様々な条件で論文をふるいにかけ、最終的に青年期(30歳以下)におけるニキビと乳製品の関係性を研究した14の論文を抽出しています。
母集団の情報
論文を総合した結果、以下のような母集団が得られています。
- 比較対象となる母集団:78,529人
- 母集団の年齢と性別:7歳~30歳の男女
- そのうちニキビを有する集団:23,046人
- ニキビを有さない対照集団:55,483人
2万人以上のニキビの症例に対して比較解析ができそうです。母集団が非常に大きく信頼性の高い結果が期待できますね。
これらの集団に対して、摂取する乳製品の種類や頻度の影響を統計的に算出しています。
解析の結果
解析結果についてまとめます。
乳製品を摂取している人が乳製品を摂取していない人と比較してニキビの有症性にどの程度寄与しているか(粗オッズ比)を統計的に算出しています。
オッズ比は高ければ高いほどニキビへの寄与が高いことを意味します。またpの値は低ければ低いほど確からしい結果であることを意味します。
一般にp < 0.05で統計的有意差ありと判定されます。結果は以下です。
- 乳製品全般 : 1.25倍, p = 6.13×10-8
- 無調整牛乳 : 1.22倍, p = 6.66×10-3
- 低脂肪乳・スキムミルク : 1.32倍, p = 4.33×10-5
- チーズ : 1.22倍, p = 5.21×10-2
- ヨーグルト : 1.36倍, p = 2.21×10-2
上記の結果から、乳製品の摂取がニキビの有症性に1.22~1.36倍ほど寄与していると考えることができます。いずれの乳製品でも高いオッズ比ですね。
チーズ以外はすべてp < 0.05となり統計的に有意な差です。チーズもp = 0.0521と限りなく有意に近いですね。
また乳製品の摂取頻度による粗オッズ比も算出されています。これは週にコップ1杯以下の牛乳(無調整牛乳、低脂肪乳)を飲んだ被験者に対する、各摂取頻度におけるニキビ有症のオッズ比です。
- 週にコップ2~6杯 : 1.24倍, p = 0.11
- 1日にコップ1杯 : 1.41倍, p = 0.0241
- 1日にコップ2杯以上 : 1.43倍, p = 9.69×10-3
牛乳の摂取頻度が上がるとニキビ有症のオッズ比も増加していますね。ただし1日1杯以上飲んだ場合においてのみ統計的な有意差が生じます。
1日1杯と1日2杯以上では寄与率にそこまで変化はなさそうということも分かりました。
乳製品の摂取はニキビに少なからず寄与する
このようにエビデンスレベルが高いと言われるシステマティックレビューによって、青年期(30歳以下)のニキビの発症における乳製品との関係性が明らかになってきました。
変数間の影響を考慮しない粗オッズ比においては、乳製品の摂取によって1.2~1.3倍程度ニキビの有症に寄与すると算出されており、乳製品の寄与は少なからずあると思います。
筆者らは研究間の不均一性やバイアスの懸念があるので結果は慎重に議論すべきと述べており、これらの解消のために更なる研究が進むことを期待したいです。
とはいえ、2019年にはこの研究の他にも乳製品とニキビに関するメタアナリシスが報告されており(参考文献)、こちらの報告でも牛乳の摂取とニキビの有症性が関連することが示されています。
このことからも、乳製品の摂取が少なからずニキビの発症に寄与していると考えて良いと思います。
乳製品との正しい付き合い方
このように乳製品は一般的にニキビへの寄与が少なからずあると考えられますが、結局ニキビを防ぐために乳製品を徹底的に防げばよいのでしょうか?
答えは「一概にはそうとは言い切れない」です。これは私のTwitterでも色々と議論させて頂きましたが、乳製品を摂取しないことによるデメリットも存在します。
いつも勉強させていだいています
— あさみち【薬剤師】 (@PhAsamichi) April 11, 2020
論文の紹介ありがとうございます
ニキビに対する影響について反論はないですが、
このような論文を紹介する場合、摂取制限することによるデメリットも言及してほしいと思います
乳製品にはさまざまな栄養素が含まれているので制限することによるリスクもあります
薬剤師のあさみちさんより、このようなご指摘をいただきました。まさに仰る通りです。
あさみちさんよりご紹介いただいた論文には、乳製品の摂取による死亡率・心血管疾患のリスク低下の可能性が示されていました(参考文献, 参考文献)。特に乳製品摂取による血圧低下効果は近年多くの研究が進んでいるようです。
また色々と調べたところ、乳製品の摂取は2型糖尿病の発症リスク低下にも有効であるとの報告もあります(参考文献)。
乳製品を極端に控えるということは、これらの発症リスクが高まるということです。
今回の報告は「ニキビ」という一つの切り口で乳製品の影響を解析した結果であり、例えば「心疾患・糖尿病」という別の切り口で乳製品の影響を解析すると別の結果が出てきます。
このように複雑な生命活動の中で一つの食事のメリット、デメリットを断定的に語るのは不可能だと思います。
私の考えとしては、現在特にニキビにお困りではない方は過剰に乳製品の摂取を控える必要はないと思いますし、あくまで今回の知見が現在ニキビにお悩みの方が食生活を見直す一つのキッカケになればと思っています。
現在ニキビにお悩みの方で中々改善傾向が得られない場合、ひとつの可能性として「乳製品の摂り過ぎ」を疑ってみてください。
そして乳製品のデメリットだけでなく、メリットもきちんと理解しながら摂取方針を決めていくことが大切です。
ぜひ本記事を参考に、食生活を見直してみてください!
参考文献・ホームページ
・Nutrients, 2018, 10(8), 1049.
・Clinical Nutrition, 2019, 38, 3, 1067–1075.
・Nutrition Research Reviews, 2016, 29, 2, 249-267.
・The Lancet, 2018, 392, 10161, 2288-2297.
・Advances in Nutrition, 2019, 10, 6, 1066–1075.
・Wikipedia「メタアナリシス」