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【勘違い多数】 皮膚のターンオーバーとは?皮膚科学の基礎から徹底解説!

なつなつ

ターンオーバーってよく聞きますが皮膚科学的にはとても複雑な現象です。この記事を読めばターンオーバーについての正しい知識が身に付きます。ぜひ本記事を美容の教材などにお使いください!
この記事で分かること
  1. ターンオーバーという言葉の皮膚科学的な定義が分かる
  2. ターンオーバーとは皮膚科学的にどのような現象を指すのかが分かる
  3. ターンオーバーの適切な速度やターンオーバーに影響を与える因子が分かる 

美容に少し詳しい人であればターンオーバーという言葉は聞いたことがあるはずです。なんとなく肌の生まれ変わりを意味する言葉として認識されていますよね。

しかし美容系のブログやコスメのレビューでは以下のようなコメントを結構よく目にするんです。

  • ターンオーバーが遅れてしまうと肌に悪いから早める必要がある!
  • この化粧品はターンオーバー促進効果があってお肌に良いです!
  • 歳を取るとターンオーバーが遅くなるから促進しなければいけない!

これを見て私は、ターンオーバーを本当に正しく理解して発信しているのかな?と疑問に感じてしまいました。ターンオーバーはこのように簡単に語れる現象ではありません。

そこで本記事では皆さんが混乱する肌のターンオーバーについて皮膚科学の視点から徹底的に解説したいと思います。ぜひ皮膚科学や美容の勉強に本記事をお役立てください。

ターンオーバーとは?

そもそもターンオーバーとはどのような現象を指すのでしょうか?

まずはターンオーバーという言葉の定義を日本化粧品技術者協会のHPで確認してみましょう。

ターンオーバー [ turnover ]
基底層におけるケラチノサイトの増殖と、角化の過程、角層剥離は、絶え間なく行われている。その生まれ変わりをターンオーバーという。健康な皮膚においては一定のリズムでターンオーバーが繰り返されているため、その生まれ変わりには気づかないことが多い。しかし、ターンオーバーのリズムが乱れると、肌荒れなどのさまざまなトラブルを引き起こす。

引用:日本化粧品技術者協会HP 化粧品用語集「ターンオーバー」

皮膚科学的にはこちらがターンオーバーの定義と言えます。しかしこの文章だけでターンオーバーを理解出来た人は天才ですね(笑)。もう少しターンオーバーの中身を丁寧に解説していきます。

ターンオーバーを正しく理解するためには、まずは皮膚の構造を知る必要があります。そもそも皮膚は大きく分けると3つの部分から構成されます。皮膚の外側から ①表皮  ②真皮  ③皮下組織 となっています。

この中で皆さんが良く知るターンオーバーが関係するのは①表皮のみです。真皮や皮下組織は基本的にターンオーバーに関係ありません

さらに ①表皮 の構造を詳しく見ていきましょう。

表皮はさらに①角層 ②顆粒層(かりゅうそう)③有棘層(ゆうきょくそう)④基底層(きていそう)に分かれています。

ターンオーバーを正しく理解していくために、表皮でどんなことが起きているかを解説します。

簡単に言うと表皮では日々新しい細胞が生まれては死んでいくということが起こっています。

表皮の最も深い位置にある基底層では表皮角化細胞(ケラチノサイト)と呼ばれる細胞が日々生み出されています。基底層で生まれたこの細胞は、約1か月~2か月をかけて形や性質を変えながら徐々に有棘層、顆粒層へと上がっていき、最終的に角層になります

表皮角化細胞は元々はもちろん生きた細胞ですが、角層では細胞は死んでしまっています。顆粒層で細胞が死に絶え、その残骸が角層となっているのです。そして角層まで到達した細胞は最終的に垢となって皮膚から剥がれ落ちるのです。

このような基底層で細胞が生まれ、角層になって垢として剥がれ落ちるまでの一連のプロセスのことをターンオーバーと呼びます。これがターンオーバーという言葉の正しい定義です。

POINT
  • ターンオーバーに関与するのは皮膚の中でも表皮のみである
  • 表皮の細胞が生まれてから垢となって剥がれ落ちる一連のプロセスをターンオーバーと呼ぶ

ターンオーバーに重要な2つのプロセス

ターンオーバーについて大体のメカニズムは理解できたと思います。

それではさらにターンオーバーについて理解を深めるため、ターンオーバーの中身についてより詳しく解説していきます。

ターンオーバーは先ほど言ったように「細胞が生まれてから角層になって剥がれ落ちるまでのプロセス」です。でもこの過程の中には性質的に全く異なる2つのプロセスが含まれています。

それが細胞の分化角層の剥離です。ターンオーバーに関する多くの誤解は、これら2つのイベントを正しく理解していないことから生じています。

細胞の分化

細胞の分化とは一言で言えば細胞が成熟することです。

基底層で生まれたばかりの細胞は、その時点では非常に未熟な細胞です。これが有棘層、顆粒層に上がっていくにつれて、より強固な成熟した細胞に変化していきます。これが細胞の分化です。角化とも言いますね。

この細胞の分化は一般に、ゆっくりと時間を掛けた方が良いと言われています。急激に成熟させると未熟な細胞が出来てしまい、肌のバリア低下を引き起こしてしまうためです。細胞の分化はターンオーバーの前半部分に当たりますね。

角層の剥離

一方で角層の剥離とは、その名の通り角層が剥がれ落ちることです。

角層まで上がってきた細胞は互いに非常に強く接着しており、これが切り離されることで垢となって剥がれていきます。この角層剥離が停滞してしまうと鱗屑(りんせつ)と呼ばれる粉吹きのような現象が起こります。

このように角層剥離が遅れると肌の状態が悪化することが多く、一般に角層の剥離は促進した方が良いと言われています。角層の剥離はターンオーバーの後半部分当たります。

つまりまとめるとこのようになります。

  細胞の分化 角層の剥離
ステップ ターンオーバーの前半 ターンオーバーの後半
起こっていること 細胞が成熟している 接着した細胞が剥がれている
適切と言われる速度 遅い方が良い 速い方が良い

ターンオーバーの前半と後半で、一般的に適切と言われる速度が逆になっています。これが多くの人がターンオーバーについて誤った認識をしている原因です。

ターンオーバーは「速い方が良い、遅い方が良い」という一言では単純に語れないのです。前半と後半で適切と言われる速度が異なるので当然ですよね。

本当に正しくターンオーバーを理解するためには、細胞の分化と角層の剥離という2つのプロセスに分けて考える必要があります。

POINT
  • ターンオーバーは”細胞の分化”と”角層の剥離”という異なる現象から構成される
  • ターンオーバーの適切な速度は前半と後半で異なる

ターンオーバーに影響を与える因子

ターンオーバーは非常に複雑な現象の組み合わせであることがお分かり頂けたと思います。

そこで次に、ターンオーバーの速度に影響を与える因子を見ていきましょう。本来は様々な因子が影響を及ぼしますが、今回は代表的な4つの因子についてご紹介します。

紫外線

紫外線が肌に与える影響は本当に様々ですが、ターンオーバーにも大きな影響を与えています。

こちらの論文によれば、紫外線刺激により表皮細胞の分化が過度に促進されることが示されています。このような状態を表皮の過増殖と言ったりもします。

つまり紫外線はターンオーバーの前半部分である「細胞の分化」を異常に加速させてしまうと言えるでしょう。その結果、未熟な細胞が形成され、皮膚バリアの低下につながります。

日焼け止めは紫外線を防御することでこのような表皮細胞の過剰な分化を抑制します。これによって成熟した細胞を形成することができ、皮膚のバリアを向上させると言えるでしょう。

肌の老化

歳を取ることによってもターンオーバーの速度が変化します。こちらの論文では、加齢によってターンオーバーの速度が低下することが示されていますね。

ターンオーバーの期間は一般的に成人では28日前後と言われていますが、高齢になると40~60日程度になります。これは老化によって細胞の分化」と「角層の剥離」の両方が遅くなるためであると言われています。歳を取るとターンオーバーが全体的に遅くなるということですね。

ん?つまり「細胞の分化」が遅くなるということは、老化によって肌に良い方向に行くということ?と思った方もいるかと思います。

実はここが勘違いしやすいのですが、加齢による細胞の分化速度の低下については若齢と比較して細胞の成熟にかかる時間が長くなっていると考える必要があります。これはそもそも加齢によって細胞の増殖能力が低下するためです。

よく「歳を取るとターンオーバー速度が遅くなるから速めた方が良い」と主張する方がいますが、細胞の分化に関してはこれを速くすると未熟な細胞が出来てしまうのでむしろ逆効果です

「若齢と高齢では細胞の成熟に必要な時間が異なる」ので、そもそもターンオーバーの速度を若齢と高齢で比較すること自体ナンセンスです。この点を勘違いしないようにしましょう。

肌の水分量

肌の水分量もターンオーバーには非常に重要です。これは主にターンオーバーの後半である「角層の剥離」に関与します。

乾燥などにより角層の水分量が低下すると、カリクレイン(KLK)などの角層の剥離に関与する酵素の活性が落ちてしまいます。これによって角層の剥離が停滞し、ターンオーバー速度が低下します。

つまり肌の水分量低下はターンオーバーの後半である角層の剥離を遅くしてしまうと言えるでしょう。

冬の時期に肌が白く粉吹きのような状態になるのは、乾燥によって肌の水分量が低下することでカリクレインの酵素活性が低下し、結果として角層の剥離が停滞してしまうためです。白く見えているのは、うまく剥離できなかった角層の残骸です。

ワセリンやグリセリンなどによる肌の保湿は、角層の水分量を正常に保つことでカリクレインの活性を上げ、角層の剥離を向上してターンオーバー速度を上げることが出来ます。結果として、粉吹きの改善に効果的であると言えます。

肌のpH

先ほど出てきた酵素カリクレインに関連して、肌のpHもターンオーバーに大きな影響を与えます。

角層剥離酵素であるカリクレインは基本的にLEKTI(レクティ)と呼ばれる妨害因子と結合しており、その酵素活性が低下しています。

実は酸性環境下では、このカリクレインとLEKTIの結合が緩和されることが知られています。つまり酸性状態ではLEKTIによる妨害が解除されているわけですから、結果としてカリクレインの活性が向上し角層の剥離が促進されます。

肌を弱酸性に保つと良いと言われる理由は、カリクレインの活性を向上させることで角層の剥離を促進し、肌を正常に保つことが出来るためとも言われています。

以上をまとめると、このようになります。

  細胞の分化(前半) 角層の剥離(後半)
適切な速度 一般に遅い方が良い 一般に速い方が良い
紫外線 速くする
老化 時間が掛かる 遅くする
水分量低下 遅くする
弱酸性 速くする

今回解説したように、ターンオーバーは非常に複雑な現象です。

これ以外にも紫外線が角層剥離にも影響を与えていたり、肌の水分が細胞の分化にも影響を与えていたりという報告はたくさんありますが、今回はターンオーバーに関与する主要な因子ということで、分かりやすいように上記のようにまとめてみました。

いかがでしたか?ぜひ本記事をターンオーバーの正しい理解にお役立てください。

本記事のまとめ

・ターンオーバーは細胞の分化と角層の剥離の2つのプロセスから成る

 

・ターンオーバーは速い方が良い、遅い方が良いの一言では語れない

 

・紫外線、老化、水分量、pHなどがターンオーバー速度に影響を与える

参考文献・ホームページ

Carcinogenesis, 2006, 27, 2, 225–231.

・コスメトロジー研究報告, 2010, 18

・日本皮膚科学会雑誌, 2012, 122, 13, 3271-73.

・日本香粧品学会誌, 2014,  38, 1, 15–21.

・色材, 1989, 62(7), 430-438.

・Material Life, 1995, 7(2), 66-71.

・J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., 1999, 33 , 16-26.

・資生堂dプログラムホームページ(https://www.shiseido.co.jp/dp/column/vol17.html)

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ピーリングをやらない方がいい理由と、「皮剥け」がなぜ起こるかのお話 – 考えて選ぶ、選んで綺麗になる

[…] — かずのすけ (@kazunosuke13) March 23, 2020 先日、化粧品分析で有名なかずのすけさんが呟いてらしたこちらのツイートが、私のTLで話題になっていました。今日は、「ピーリング」と「皮剥け」について、私が思うところを書いて行きたいと思います◎ピーリング、なんでしたくなるの?私はいそいそと「ベビーオイル洗顔」でエゴサするのが日課なんですが(え?キモい?分かってます)ベビーオイル洗顔を始めたばかりの方がよくつまずく事柄、トップ3ランキングが…1位 角栓がモサモサする2位 皮剥けしてきて化粧がのらない3位 ベビーオイル洗顔が良すぎて、ほかのクレンジングの処遇に困るです(3位は冗談ね…)! 顔のザラ付きや、ゴワ付きについては上記の記事に書いたことがあります。角栓についてはこの間ずいぶん長々と書いたので、本日は、「皮剥け」にフォーカスしていきたいと思います!ベビーオイル洗顔による皮剥け症状に悩む方からよくご質問をいただくことが、「ピーリングローションを使ってもよいのでしょうか?」というご質問です。結論からいうと、私の意見は…「ダメです‍♀️我慢してください‍♂️」ってことになります◎そもそも、何故皮剥けは起こるのか…死んだ細胞が幾重にも重なって、肌表面を「角質層」として覆っていることは、今までも何度も書いてきました。そしてその角質細胞の一つ一つの間をセラミドをはじめとする細胞間脂質がセメントのように埋めることで、強固な「肌のバリア機能」を形成しています。https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2019/190903_01/index.htmlよりじゃあ、そんなに強固に接着している角質層が、どうやって肌表面から脱落していくのか、というのが今回の問題ですこの辺りの話は、こちらのなつなつさんのブログに詳しいです(カリクレインのお話のところですね)こちらのなつなつさんの記事を参考に、もう少し突っ込んだ内容を調べてみようと思い探してきたのが、こちらです‍♀️少し古い、1999年の資生堂の報文です‍♀️『角層の接着, 剥離の機構とスキンケアに対する役割』 […]

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