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【基礎から解説】 肌のセラミドの役割を皮膚科学の研究者が徹底解説!

なつなつ

今回は皆さんも一度は聞いたことのあるセラミド。本記事ではセラミドの役割や機能についてかりやすく解説します!

セラミドは「お肌のバリア成分」として多くの人が知っている成分ですよね。しかしセラミドがどのように生まれ、どのように機能しているのか正しく理解しているでしょうか?

本記事では皮膚科学、そして美容の基本中の基本であるセラミドについて、その正体や機能について分かりやすく解説します。「セラミドってなんだっけ?」と思った時にこの記事を振り返って頂ければ、基礎から応用まで幅広く復習することが出来ます。

ぜひ本記事を美容の勉強にお役立てください。

そもそもセラミドとは何か?

まずは「そもそもセラミドって何?」という皆さんの素朴な疑問にまずは簡単にお答えしたいと思います。

一言で言うとセラミドとは、肌のバリア機能の維持に重要な脂質の一種です。以下に代表的なセラミドの化学構造を示しますので、眺めてみてください。

化学構造自体は重要ではありませんので、「へーこんな形なんだー」ぐらいに思っておいてください。ちなみに「代表的な」と書いていますので、これ以外にも様々な構造のセラミドが存在します。

重要なのは、セラミドは大きく分けて2つのパーツから構成されているということです。それが脂肪酸スフィンゴシンです。

これらはセラミドの原料となる成分であり、皮膚の細胞に大量に存在しています。この脂肪酸とスフィンゴシンの組み合わせが異なるセラミドが複数存在するため、セラミドには色々な種類があります。

一般的には脂肪酸が3種類スフィンゴシンが4種類存在し、その組み合わせで12種類のセラミドが存在すると言われています。

ヒトセラミドの構造一覧(引用:NatyuCera HP

これらの様々な脂肪酸とスフィンゴシンが皮膚細胞内の酵素によって結合され、肌のバリア機能維持に重要なセラミドが合成されるのです。

セラミドはどこで作られ、どこに存在する?

次にセラミドが作られる場所、そしてセラミドが存在する場所について説明します。セラミドは表皮の有棘層(ゆうきょくそう)上層~顆粒層(かりゅうそう)で作られ、角層に存在しています。

 

皮膚の最も外側にある表皮では、基底層で日々細胞が増殖し約1ヵ月を掛けて成熟して徐々に角層へと変化していきます。以下の記事でも紹介しましたが、この一連のプロセスをターンオーバーと呼びました。

【勘違い多数】 皮膚のターンオーバーとは?皮膚科学の基礎から徹底解説!

セラミドはこのターンオーバーの終盤である有棘層~顆粒層で合成されます。

顆粒層ではその名の通り細胞から「顆粒」が放出されます。この顆粒の放出によって最終的に細胞が死に絶え、角層となります。そしてこの顆粒には大きく分けて2種類存在し、一つがケラトヒアリン顆粒、もう一つがラメラ顆粒(あるいは層板顆粒)と呼ばれます。

このうち、ラメラ顆粒の中に含まれているのがセラミドです。(ちなみにケラトヒアリン顆粒の中には天然保湿因子NMFの前駆体であるプロフィラグリン等が含まれていますが、今回は解説しません。)

<顆粒層から放出される顆粒>

 

①ケラトヒアリン顆粒:プロフィラグリンなどNMFの前駆体を含む

 

②ラメラ顆粒:セラミドなどの脂質類を含む

正確に言うと、ラメラ顆粒の中にはセラミド以外にもたくさんの脂質が含まれています。例えば脂肪酸コレステロールなどです。これらの脂質を総称して細胞間脂質(さいぼうかんししつ)と呼びます。

ラメラ顆粒が放出されるとこれらの脂質成分が角層に向けて分泌されるため、角質細胞の間を脂質が埋めるような構造を取ります。

これが角層の有名な構造であり、皮膚科学的にはブロックとモルタル構造(レンガとセメントのようなイメージ)と呼ばれます。

 

細胞の「間」を埋める脂質だから、細胞間脂質なのです。分かりやすいですね。セラミドはこの細胞間脂質の中の一つの成分なのです。

こちらの論文によれば、細胞間脂質の組成はセラミドが約50%コレステロールが約25%脂肪酸が約10~25%となっています。セラミドは細胞間脂質の主成分と言って良いですね。

セラミドの機能・役割とは?

このようにセラミドは細胞間脂質の主成分として角質細胞の間を埋めていることが分かりました。ここからさらに、セラミドがなぜ皮膚のバリア機能に重要であるかを解説していきます。

まずセラミドの構造を化学的な側面からもう一度振り返ってみると、これらは性質の異なる2つの部分から構成されていることが分かります。それが疎水部と親水部です。

先ほどはセラミドの由来から上下に分けて考えましたが、今度はセラミドを左右に分けて考えます。

上の図で言う左側は炭素(元素記号C)が密集して存在する部分であり、このような部分を疎水部と呼びます。

一方右側は酸素(元素記号O)や窒素(元素記号N)など、炭素に比べて電子の量が豊富な元素が密集しています。このような部分を親水部と呼びます。

この構造を一般化すると、親水部の頭に疎水部の足が2本生えたような構造になります。

みなさんもご存知のように化学的には疎水部は油になじみやすく、親水部は水になじみやすいです。つまりセラミドは性質の異なる領域を一つの分子内に有していると言えます。

ではこのような分子が皮膚中に存在するとどのような現象が起こるでしょう?

親水部は水になじみやすいので、皮膚の中に豊富に存在する水と結合するように並びます。反対に疎水部は水になじみにくく、水を排除するように疎水部どうして密集します。セラミド以外の細胞間脂質もこれに似たような並び方をします。

これが繰り返されると、水のある面に親水部が並び、疎水部どうしが密集した層状の構造が繰り返されるようになります。これが有名なラメラ構造と呼ばれる構造です。

このラメラ構造は肌の水分を油の層でサンドイッチすることで水分の蒸発を防ぎ、肌の保湿に重要な役割を果たしているのです油でフタをして肌の水分を保持しているようなイメージですね。

セラミドがお肌の保湿に重要と言われるのは、まさにこのラメラ構造が関係しているのです。

セラミドは刺激物質の侵入も防ぐ

このようにセラミドは水分を油の層でサンドイッチしたラメラ構造を形成することで、お肌の水分を保持し保湿に重要であることが分かりました。

さらにセラミドは水分の保持だけでなく、外から侵入する刺激物質の防御にも関与しています。単純に考えるとセラミドなどの細胞間脂質が多い肌少ない肌ではどちらの方が刺激物質が浸透しにくいでしょう?

当然、細胞間脂質が多い肌の方ですよね。細胞と細胞の間がセラミドなどの脂質でしっかりと密閉されていた方が、刺激物質の侵入を抑制できそうです。

このようにセラミドは細胞と細胞の間の隙間を密に埋めることで、外部からの刺激物質の侵入を防ぐ役割も担っています。

例えばアトピー肌では健康な肌と比較してセラミドの量が少ないことが明らかになっています。

肌の水分をサンドイッチする力が小さくなるので乾燥しやすく、外部の刺激物質を取り込みやすいのでかゆみや刺激が起こりやすくなります。まさにアトピーの典型的な症状ですよね。なぜアトピーでセラミドが少なくなるのかについては現在も研究が進んでいます。

以上をまとめると、セラミドの主な機能は以下の2つと言えます。

①ラメラ構造を形成し、肌の水分を保持する

 

②角質細胞の間をしっかりと埋め、刺激物質の侵入を防御する

これだけ解説すれば、いかにセラミドが肌のバリアに重要であるかがお分かりいただけたかと思います。これがセラミドが重要と言われる理由なのです。

セラミドに関する最新研究の紹介

以上セラミドの機能について詳細に紹介しました。ここまではネットで調べればすぐに出てくる内容ですが、今回はさらに専門的な内容に踏み込んでセラミドの研究をご紹介したいと思います。

ラメラ構造は2種類存在する

まず先ほど解説したように、セラミドを主成分とする細胞間脂質はラメラ構造を形成していました。

しかしこのラメラ構造には、水と油の層の間隔が異なる2種類のラメラ構造が存在することが明らかになっています。間隔が短い短周期ラメラと、間隔が長い長周期ラメラです。

これらの2種類のラメラ構造はそれぞれ皮膚科学的な役割が異なる可能性が示唆されています。

具体的には、短周期ラメラは層の間に水を含むことから肌の水分保持、長周期ラメラは流動性が高いことから物質浸透(つまり刺激物質のブロック)に関与していると言われています。

このようなラメラ構造の詳細を明らかにする研究はまさに最新レベルで行われています。

長周期ラメラと短周期ラメラがそれぞれどのように形成されるかについては未だ明らかになっていませんが、ひとつの要因として細胞間脂質の成分比率が寄与している可能性が示唆されています。

細胞間脂質にはセラミドだけでなく脂肪酸やコレステロールも含まれていました。重量比ではセラミド50%、コレステロール25%、脂肪酸10~25%と説明しましたが、モル数(分子数)に変換するとこれらはおよそ1:1:1の成分比率になっています。

これらの成分の微妙な比率の変化やそのほかの脂質の存在によって、短周期ラメラと長周期ラメラのどちらになるかが決まるようです。

このように細胞間脂質の成分比率はラメラ構造の形成に重要ですが、この成分比率を変える行為を皆さん毎日行っています。それが洗顔です。

洗顔を行うと基本的には角層の細胞間脂質が洗顔液の中に溶出されます。これによって細胞間脂質のバランスが崩れ、ラメラ構造が崩れ、バリア機能が崩れるのです。

マイルドな洗顔が推奨されるのは、細胞間脂質溶出量を出来るだけ抑えラメラ構造を強固に保つためなのです。

今後、短周期ラメラと長周期ラメラに寄与している分子がより詳細に明らかになれば、皮膚のバリアに重要な成分を解明することが出来ますね。今後の研究展開に期待したいところです。

シグナル伝達分子としてのセラミド

さらにセラミドのもう一つの重要な機能として生理活性脂質としての機能が挙げられます。

セラミドといえばこれまで説明したような物理的な防御機能のみが語られがちですが、実は生理活性脂質のようなシグナル伝達分子としての強力な作用を有することも知られています。

セラミド自体もシグナル伝達分子として働きますが、特に重要なのがセラミドの代謝物です。

セラミドが酵素によって分解されて生成するスフィンゴシン1リン酸と呼ばれる物質は、非常に強力なシグナル伝達物質と言われています。免疫細胞に働きかけ、免疫・炎症応答に関与します。

最近では気管支喘息の発症にこのスフィンゴシン1リン酸が関与していることも明らかになっていますね。

このあたりの研究もまさに最新レベルで進んでいるところですが、セラミドは肌の物理的なバリアを担うだけでなく、時には自身が分解されることでシグナル伝達物質として働き、体内に炎症などの異常を知らせているのかもしれません。

セラミドひとつとっても、非常に深く生命活動に関与していることがお分かり頂けたかと思います。

以上、セラミドについて皮膚科学的な観点で基礎から応用まで幅広く解説しました。この内容を勉強すれば、セラミドについては一通りマスターしたと言って良いと思います。

ぜひ本記事を参考にして、セラミドについてもう一度勉強してみましょう!

本記事のまとめ

・セラミドは脂肪酸とスフィンゴシンから構成される脂質の一種である

 

・セラミドは細胞間脂質の主成分である(約50%を占める)

 

・セラミドはラメラ構造を形成し、肌の水分保持や刺激物質の防御に重要である

参考文献・ホームページ

・表面科学, 2014,  35, 1, 11-16.

・Drug Delivery System, 2018, 33, 4, 252-258.

・薬剤学, 2018, 78 (1), 18-24.

・オレオサイエンス, 2012, 12, 1, 25-32.

・Pulm. Pharmacol. Ther., 2010,  23, 36-42.

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久しぶりの、市販品評価「キュレルのセラミドミスト」~前編 | コスメあら!?カルト?? へ返信する コメントをキャンセル

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