なつなつ
最近Twitterなどでナイアシンアミドという化粧品成分が非常に話題になっています。
ナイアシンアミドは様々な肌トラブルに効果的な万能成分として、古くから化粧品に用いられています。
本記事ではナイアシンアミドの肌への効果について、皮膚科学的な視点から詳しく解説したいと思います。
現在ナイアシンアミドをお使いの方も、これからナイアシンアミドを試してみようと思っている方も、ぜひ本記事を参考にナイアシンアミドについて勉強してみて下さい!
もくじ
ナイアシンアミドとは?
まずナイアシンアミドとはそもそもどんな成分なのか解説したいと思います。ナイアシンアミドは以下のような化学構造を取る成分です。
かなり単純な化学構造であると言えますね。そして非常に分かりにくいのですが、ナイアシンアミドには様々な別名があります。
- ニコチン酸アミド(医薬部外品名称)
- ニコチンアミド
- ナイアシン
- ビタミンB3
ナイアシンアミドは化粧品表示名称であり、医薬部外品に配合されるとニコチン酸アミドに名称が変わります。名称は違いますが同じ成分です。
ナイアシンアミドと対になっている成分がニコチン酸です。
ニコチン酸のカルボン酸の部分をアミドに変換したものがナイアシンアミドになりますね。そしてナイアシンアミドとニコチン酸をまとめてビタミンB3もしくはナイアシンと呼びます。
知らなかった人も多いと思いますが、実はナイアシンアミドはビタミンB群の栄養素の一種だったんですね。
ナイアシンアミドの皮膚への効果
ナイアシンアミドは安全性も高いことから古くから化粧品原料として使用されており、極めて多様な皮膚への効果が報告されています。
本記事では以下の2つの文献をベースとして、ナイアシンアミドの具体的な皮膚への効果について解説していきたいと思います。
A Review of the Range of Effects of Niacinamide in Human Skin, Paul J. Matts, John E. Oblong and Donald L. Bissett, IFSCC Magazine, 2002, vol. 5, no 4.
Use of nicotinamide in dermatology, E. Forbat, F. Al-Niaimi and F. R. Ali, Clinical and Experimental Dermatology, 2017, 42, 137–144.
真皮のコラーゲン合成を促進する
ナイアシンアミドには真皮コラーゲンの産生を促進する働きがあることが報告されています。
人間は加齢や紫外線曝露によって真皮線維芽細胞のコラーゲン合成機能が低下します。コラーゲンの量が減少することで真皮におけるタンパク質線維のネットワークが脆弱になり、たるみやシワの原因となります。
細胞レベルの検討においては、ナイアシンアミドが真皮線維芽細胞のコラーゲンの産生量を54%増加、線維芽細胞の増殖性を20%増加させることが報告されています。
近年ではナイアシンアミドがシワ改善効果を有する有効成分として厚労省に認可されたことから、ナイアシンアミドのアンチエイジング効果は高そうだと言えますね。
実際にヒトにおいても、4%のナイアシンアミドを含むクリームを8週間使用することによってシワやキメのスコアが有意に改善すること、5%のナイアシンアミドを含むクリームを12週間使用することで皮膚の弾力が有意に改善することが示されています。
またこちらの論文では、ナイアシンアミドが真皮で線維ネットワークを形成するエラスチンの産生を促進し、コラーゲン分解酵素であるMMPのダイレクトな発現抑制効果を示すことも報告されています。
シワやたるみが発生するメカニズムを解説した以下の記事を合わせて読んでいただくと、この効果に対する理解が深まると思います。
【アンチエイジング】シワ・たるみの原因と対策を徹底解説このようにナイアシンアミドは真皮領域に働きかけることで、シワやたるみの改善において確かな効果を有していると言えますね。
表皮におけるセラミドの合成を促進する
表皮におけるセラミドの合成促進効果もナイアシンアミドの有名な機能です。
セラミドの役割については以下の記事で詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
【基礎から解説】 肌のセラミドの役割を皮膚科学の研究者が徹底解説!表皮の細胞であるケラチノサイトにナイアシンアミドを添加することで、セラミドの合成能が5倍に増加すること、さらに細胞間脂質の主要成分であるコレステロールや脂肪酸の合成も増加することが確認されています。
実際に2%のナイアシンアミドを含むクリームを4週間ヒトへ適用したところ、角層中に含まれるセラミドや脂肪酸などの細胞間脂質の量が増加し、肌のバリア性指標であるTEWLが有意に低下する(バリア機能が向上する)ことが示されています。
ナイアシンアミドは表皮の細胞間脂質を増加させることで、皮膚のバリア機能向上に寄与していると言えますね。
表皮の色素沈着や肝斑を抑制する
ナイアシンアミドは色素沈着や肝斑への効果も報告されています。
シミの原因となるメラニンは、表皮に存在するメラノサイトと呼ばれる細胞が紫外線などによって活性化することで合成されます。
メラノサイトは表皮の細胞であるケラチノサイトに触手を伸ばし、これを介してメラニンを含む構造体であるメラノソームを輸送することでシミが形成されます。
ケラチノサイトとメラノサイトの共培養系においては、ナイアシンアミドの添加によってこのメラノソーム輸送が25~45%抑制されることが報告されています。
実際に5%のナイアシンアミドを含むクリームを4週間ヒトに適用することで色素沈着が有意に減少すること、また2%ナイアシンアミドを含む日焼け止めを4週間使用することで肌の明るさが有意に増加することが示されています。
ナイアシンアミドは色素沈着を抑制し、肌のトーンアップが期待できる成分だと言えますね。
皮脂分泌やニキビを抑制する
ナイアシンアミドは皮脂分泌やニキビへの効果も報告されています。本当に幅広い効果を有していますね。
こちらの論文では、2%のナイアシンアミドを含む保湿クリームを2週間適用することで皮脂の分泌量が有意に低下することが報告されています。
皮脂分泌はニキビと深く関係していますので、ニキビへの効果も期待できそうですね。
実際に中程度のニキビを有する患者に4%のナイアシンアミドを含むジェルを8週間適用したところ、ニキビの重症度が52%低下したとの報告があります。
ナイアシンアミドのニキビへの効果は、この他にも多数のランダム化比較試験で検証されており、エビデンスレベルが高いと言えるでしょう。
ナイアシンアミドの効果の源泉は何か?
このようにナイアシンアミドは、シワやたるみ・シミ・皮脂・ニキビに渡るまで非常に幅広い効果を有するのは間違いないと言えます。
まさに様々な肌トラブルに効果的な万能成分ですね。実際にナイアシンアミドの効果を実感されている方も多いのではないでしょうか?
最後にこのようなナイアシンアミドの高い美容効果がどのような作用に起因するのか解説したいと思います。
実はナイアシンアミドは、生体内で非常に重要な役割を果たす成分の前駆体(原料)になります。それがNAD+です。
NAD+は以下の図のような構造を取る生体分子ですが、〇で囲んだ部分がまさにナイアシンアミドと同じ化学構造を取っていますよね。ナイアシンアミドはNAD+の主要な前駆体であると言われています。
このNAD+は細胞内で電子(e-)やプロトン(H+)を様々な分子に受け渡すことによって、絶えずNADHと呼ばれる成分へ変換されています。
このNAD+とNADHの変換反応によってやり取りされる電子やプロトンは、生体内の様々な酵素反応や細胞のエネルギー源であるATPの合成に深く関与しています。
このような観点からナイアシンアミドはNAD+の合成系を介して細胞のエネルギー産生や代謝系に影響を与えることで、その多様な効果を発揮していると推定されています。
このNAD+による代謝の活性化パスウェイは極めて複雑であり、特に皮膚においては未だに不明な点が多いですが、こちらの最新論文ではそのメカニズムの一端が見えてきています。
- ナイアシンアミドは表皮上層の分化を抑制し、基底層の表皮幹細胞の増殖性を向上する
- ナイアシンアミドによるNAD+の供給を介して、解糖系代謝やATP合成が促進される
- ナイアシンアミドによるNAD+の供給を阻害すると、老化が促進される
こちらの知見はこれまで述べてきたナイアシンアミドの幅広い効果に通ずる部分も多く、非常に興味深い結果です。
少し難しい話にはなりますが、この論文の結果からナイアシンアミドは表皮細胞の代謝を活性化することで表皮細胞の増殖性を向上するとともに、ターンオーバーの速度を適切に調節する作用があると言えると思います。
一般的に加齢と共に表皮細胞の増殖能力は低下し、これが皮膚に様々な機能不全をもたらすことで老化の根本的な原因となります。
先ほど解説したようにナイアシンアミドは細胞のエネルギー源となるNAD+の主要な原料になりますので、NAD+の生成を伴って細胞の増殖能を向上させることでアンチエイジング効果を発揮しているものと推定されています。
一方で表皮上層の分化、すなわちターンオーバーの前半部分にブレーキを掛けることによって細胞を成熟させ、質の高い表皮の形成に寄与している可能性も示唆されています。
ナイアシンアミドの幅広い効果は未だメカニズムが完全に解明されていませんが、このように皮膚細胞の生命活動にダイレクトに働きかけることで肌を生き返らせる作用を持っている可能性が高そうですね。
以上、大人気の化粧品成分ナイアシンアミドの皮膚科学的な効果について詳しく解説しました。ぜひ本記事を参考にナイアシンアミドについて勉強してみて下さい!
参考文献
・IFSCC Magazine, 2002, 5, 4.
・Clinical and Experimental Dermatology, 2017, 42, 137–144.
・J. Cosmet. Sci., 2018, 69(1), 47-56.
・Journal of Cosmetic and Laser Therapy, 2006, 8, 2.
・Therapeutics for the Clinician, 2005, 76,135-141.
・British Journal of Dermatology, 2002, 147, 1, 20-31.
・Journal of Investigative Dermatology, 2019, 139, 1638-1647.